急に寒くなってきましたね。これから寒い冬になってくると、車に乗り込んでエンジンをかけても、なかなか車内が温まりません。
出かける前にエンジンを始動させて、温まった頃合いを見計らって出発する方も多いのではないでしょうか。この行為は「暖機」運転というより、「暖気」ですね。
本来は「暖機」運転といい、工業機械などを使用する前に、負荷をかけずに暖め、駆動する部品同士を馴染ませたりすることを指します。
自動車における暖機運転の必要性
自動車とは本来、人やモノを乗せて(載せて)走行する機械です。走行中に各所が適切に動くためには、適切な温度である必要があります。
暖機運転とは、適切な温度になるまでの準備運動・・・といったところでしょうか。
それでは、各所とはどこか? 順番に見ていきましょう。
エンジンの暖機運転
一般的なレシプロエンジンの場合、シリンダ(筒)の中をピストンが往復運動をしています。ピストンがシリンダ内のガソリンと空気の混合気を圧縮し、プラグで点火することによって爆発、そのエネルギーを回転運動に変えて車は走ります。
エンジンの温度は適切な温度まで上がると、冷却水によって冷やされ、その温度をキープするようにできています。
パソコンのCPUなどは、冷やせば冷やすほど性能を発揮しますが、エンジンは冷やしすぎても熱すぎてもダメなのです。
少し脱線しました。 ところで、熱膨張という言葉をご存じでしょうか? 熱膨張とは、あらゆる物体は、温度が高くなればなるほど、大きくなろうとします。
物体の素材(材質)によって、大きくなる度合いは異なりますが、熱が加われば必ず大きくなるのです。(目で見て確認するのは困難かもしれませんが)
エンジンのシリンダとピストンに話を戻すと、シリンダの筒の大きさがそのままで、中を動くピストンが熱で大きくなったらどうでしょうか?
筒の内側に引っかかって動かなくなりますよね? そのために、シリンダの径とピストンの径は、必ずピストンの径(大きさ)のほうが小さくなるように設計されています。
シリンダとピストンの温度差があったとしても、隙間が開くようになっているのです。
隙間が開いていると、混合気を圧縮できなかったり、爆発した気体がシリンダの外に漏れてしまいます。そうなると、爆発のエネルギーを効率よく取り出せません。
そうならないように、ピストンの外側には、ピストンリングと呼ばれる輪っかが付いています。この輪はバネ性のある薄い板で、外側=シリンダ内壁に押し当たるようになっています。
※輪といっても繋がっているわけではなく、切れ込みがある「C」文字のようなイメージです。
ピストン1つにつき、ピストンリング2枚とオイルシール1枚が装着され、シリンダ内に常に接触して、擦れながら往復運動をしているのです。
長々と小難しい話をしてしまいましたが、要は注射器をイメージしていただければOKです。
エンジンが温まっている・いないに関わらず、ピストンとシリンダは、ピストンリングを介して接触している=密閉されているので、エンジンが温まりきるまで待つ必要はありません。
もう一つ、エンジンの暖機運転が必要と言われている理由に、オイルを循環させるため・・・というのがあります。
エンジン始動前はオイルポンプも停止していますので、自然とオイルはオイルパンに落ちてきます。オイルポンプが始動して、オイルが循環するまで、1分ほどかかると言われています。
オイルは潤滑、冷却など重要な役割を果たすものなので、オイルが循環するまでは暖機運転させたほうがいい・・・という方もいます。
ですが、ピストンリングの説明のとき、オイルシールというものが出てきたかと思います。これは余分なオイルをそぎ落とし、適切な油膜を保持させる役割を持っています。
何か月も放置すればオイルも落ちてくるでしょうが、潤滑に必要なオイルは、このオイルシールである程度保持されているのです。
毎日、または毎週乗るような場合は、オイルが循環するのを待つ必要もありません。
足回りの暖機運転
暖機運転はエンジンだけではありません。 サスペンションやタイヤなども、適切な温度というものがあります。
タイヤは冷えていればグリップ力も落ちていますし、サスペンションのブッシュ類も温まっていなければ動きも鈍るでしょう。
ブレーキも性能を発揮する温度帯があります。
これらは停止しているだけではなかなか温まりません。人間で例えると、ストレッチやウォーミングアップにあたるのが、足回りの暖機運転です。
その他
オートマ、マニュアルに関わらず、トランスミッションも暖機運転というものがありますが、意識して行うというものではなく、オイルが巡り適温になるまででしょうか。
主にエンジンの暖機運転について書いてきましたが、どう感じましたか?
次に、私が暖機運転が不要だと思う理由と注意点について書いていきます。
暖機運転は不要。だけどコレは注意して!
車も人間に置き換えてみればわかりやすいかもしれません。
暖機運転は準備運動
人間もスポーツなどをする際、準備運動をしますよね。 車も同じで、速く走る(いわゆるスポーツ走行)ためには準備運動は欠かせません。これが暖機です。
では、人間が普段の生活において、朝起きてまず準備運動をしますか?
殆どの方はそんなことしないでしょう。日常生活はそれほど身体に負担がかかるものではありませんから。
車も同じです。一般道を法定速度で走行するぶんには、それほど負荷はかかりません。だからメーカーも暖機運転は不要と言っているのです。
エンジンだけの暖機運転は無意味
エンジンの項で書きましたが、ピストンとシリンダが直接擦れ合うことは、どんな温度条件下でもあり得ません。
もちろん、適切な温度にするために負荷をかけずに暖機することは無駄ではありません。ですが、それ以上に大事なのは、足回りやタイヤ、トランスミッションなどの暖機運転です。
エンジンだけベストな状態にしても、いきなり全開走行ができるわけではないのです。タイヤが温まっていなければグリップ力も発揮しませんし、サスペンションもスムーズに動きません。
足回りは、止まっていては温まりませんので、走行しながら温めていくしかありません。それなら、エンジン・足回り・トランスミッション・その他、個別にウォーミングアップするよりも、まとめて行ったほうが効率的でしょう。
そもそも製品寿命より先に買い替える
車が壊れてその生涯を全うするまで乗り続ける人が、どれだけいらっしゃるでしょうか?
(ここに予備軍が一人いますが・・・)
大半の方はエンジンが消耗して寿命を迎える前に、新しい車に買い替えるでしょう。自動車、特に日本車は日頃の取り扱いが多少雑でも、そうそう壊れることはありません。
それに下取りや買取りで車を手放すとき、「毎回暖機運転を欠かしませんでした!」と言ったところで、査定額がアップすることはないでしょう。証明できませんから。
注意すべきこと
暖機運転が不要だという理由(考え)を書いてきましたが、注意すべきこともあります。
また人間に例えてしまいますが、朝起きた直後に全力疾走しろ!と言われても、出来る人はいないでしょう。
できたとしても、足の筋を伸ばしてしまったり、足がもつれたり、怪我のリスクが高まるのは容易に想像できます。
車も同じです。暖機不要だからといって、いきなりアクセル全開したり、急ハンドル、急ブレーキなど荒い運転をされれば、車も堪ったものではありません。
エンジンをかけてすぐ出発するとしても、数分は「急」がつく運転をしないように心掛けましょう。(急がつく運転は普段からしないにこしたことはないのですが・・・)
それでは、良きカーライフを。